1/120秒の真実 前蹴り!(抜く技術) JKFan11月号掲載記事" width="620" height="60">

示範・解説・撮影協力/日本空手道玄制流武徳会 杉田隆二

抜く技術

身体の落下を推進力とする下丹田の回転!
骨盤を縦回転させて、蹴り足をタオルの如く振り出せ!
蹴る瞬間は軸足も、蹴り足も脱力せよ!
中足で目標に泥を塗りつけるが如く!

蹴り足も軸足も脱力させる極意

 杉田先生は、独自の脱力理論による身体感覚・意識・操作を提唱・実践されている。その前蹴りは、軸足及び蹴り足を同時に脱力させるというもの。力学的に、身体全体の運動量は保存されるので、体幹を真下に落とすイメージで軸足を脱力すれば、体幹の落下を打ち消すように蹴り足は浮く。蹴り足が浮いた瞬間に骨盤を前後にスライド(縦に回転)させるイメージで蹴るのだ。この時も足の力を抜いていなければいけないという。

 「タオルには筋肉は付いていません。骨盤の動きと同様にタオルの上の方をスライドさせると、タオルの先端は、あたかも前蹴りのごとく動きます。」
と脱力した身体操作のモデルを示す杉田先生。確かに力で突っ張る要素はどこにもない。が、骨盤をスライドさせた力=タオルの上端をスライドさせた手の動きに相当する勢いは、一体どこから得られるのだろう?

 杉田先生の解説は、本誌が特集してきた高速上段突きの「落下を推進に変えるモデル」に酷似している。

 その身体意識について「下丹田を玉のような物としてイメージし、その玉をスキーのジャンプ台のような形のところを転がすイメージで落とす。下丹田は前方に回転するはず。その回転を相手に伝える方が自然で強い技になる」と説く。すなわち、地面を蹴る反動を使うことなく、軸足を突っ張ることもない。膝抜きによる体幹の落下を前方推進に変えることで骨盤をスライドさせるのだ。足は、タオルと違って関節があり、重量もあるので、どうしても力で持ち上げてから蹴ろうとしがちになり、力が下から上に向かいがちになるが、この動きを前方に集中させるためにも、下丹田の前方への回転のイメージがポイントとなってくる。脱力させた蹴り足の運動は「足に付いた泥のような物を相手=目標に塗る」イメージで行うとよい。

 では本誌特集の「高速上段突きの軸足の膝抜き・股関節の外旋・左右側軸の乗り換え→半身の飛ばし」と杉田先生の技術は等しいのかと言うと、そうではない。杉田先生の身体操作では、腰は捻らないどころか、そもそも半身の左右軸を入れ替えることすらせず、ひたすら骨盤を正面に向けて、縦回転のスライドのみを使っているのである。そのため、初動で股関節を外旋し、つま先の向きを外に開くこともしない。蹴り足は下丹田から始まっているとイメージし、その下丹田を真っすぐ相手に向けて転がすように推進させることを意識を要としているのだ。実際にイメージ創りのために、下丹田を転がすイメージを、腕をクルクル回して創り込んで確認してから蹴る練習を行う生徒さんが印象的であった。

 杉田先生の考え方で特筆すべきなのは、初動から蹴る瞬間までの間、下丹田が相手にまっすぐ向かっていれば…即ち軸足の膝の曲がる向きが変わらず、骨盤が真っすぐ前を向いたまま、縦回転のみを行う…のであれば、足が開こうが、踵が上がろうが問題はないとする認識だろう。足首の固さ、X脚とO脚、内股と外股、膝の外旋の柔らかさは、十人十色であるから、これを画一的に揃える必要はないと云う。床を蹴らないという前提でなければ、このような膝から下の自由には言及できない。

 また、遠くを蹴ろうとするあまり、腰=骨盤を横回転させてはいけない。骨盤はあくまで縦回転で前方にスライドすることにより、下丹田から繋がった意識で蹴ることができるのである。

 門下生には足首のかなり固い人、膝下がもともと外旋していて、爪先をかなり外旋させても膝の向きが変わらない人が居たが、骨盤を正面に向けたままでの膝の抜きに関しては守られているようであった。

−JKFan2006年11月号 特集記事より転載−